新しいスライディングスケールの考えかた

Hospital management of diabetes:Beyond the sliding scale

米国の統計では、入院患者の12.4%は糖尿病を合併しているという。実際現場で働いていて、入院した患者さんの血糖が高値であることはよく目にするが、従来こうした人の血糖値をとりあえず下げる方法として、スライディングスケールによりレギュラーインスリンを皮下注するほうがよく用いられてきた。

自分が研修医であったころは、入院患者の血糖値の目標は200-250以下、スライディングスケールもあまり厳しく設定すると低血糖の合併のほうが恐ろしいのであまり血糖を下げすぎないようにと教わってきた。

ところが最近になり、血糖値が高い状態は慢性的な合併症の増加だけではなく、急性期の患者の予後を少なからず左右しうることが報告され、抗ストレスホルモンとしてのインスリンの効果が注目されている。

入院直後から厳格な血糖コントロールを行うことで、たとえば急性心筋梗塞(DIGAMI study)、外科手術後の重症患者、心臓手術後の患者、脳卒中患者の予後、敗血症患者の予後といったものが改善することが報告されている。

こうした結果を受け、American Association of Clinical Endocrinologists では以下のような目標値を設定している。


  • ICU入室患者の血糖値は、110mg/dl以下
  • その他の入院患者の食前血糖値は、110mg/dl以下
  • 入院患者の食後血糖値は、180mg/dl以下

この値を達成するのには、従来のスライディングスケールではまったく役不足で、単にスケールを厳しくしただけでは低血糖発作が頻発してしまう。

このため、このreviewでは重症患者においてはレギュラーインスリンの持続静注を積極的に行うべきだとし、インスリンの持続静注を開始した上で2-4時間ごとに血糖チェックを行うアルゴリズムを提唱している。

インスリンの皮下注を行っている患者については、各食前(大体30分前)に血糖チェックを行い、あらかじめ設定した基礎インスリン量(持続型インスリンの皮下注)に加えてそれらをレギュラーインスリンで補充するとされている。

基礎インスリン量の決定は、1日に必要な総インスリン量(持続静注した総量から決定する場合)がたとえば24単位であった場合、持続型インスリンを朝夕6単位ずつ、さらにレギュラーインスリンを各しょくぜん単位ずつ皮下注するところから開始し、これに食前血糖値に応じてレギュラーインスリンを補充する。

プロトコールはかなり複雑で、そのまますぐに病院で実行することは困難かとも思うが、厳格な血糖コントロールによる予後の改善効果は馬鹿に出来ないほど大きく、何よりも身近にある薬剤で実行可能なところがありがたい。

重症患者の急性期からステロイドバソプレシンインスリンの3つを少量ずつ補充する「急性期ホルモン補充療法」の効果を以前から信じ、点滴ラインを増やしては周囲から「治療を無駄に複雑にしやがって」「馬鹿じゃないの?」と罵られることしばしばであったが、こうしたreviewが出てくると少しは味方が増えるかもしれない。