大きな船は安定している。

ところが、波がもっと大きくなると、大きな船は波のパワーに負けて、
船ごと折れてしまう。

今の医療の業界に訪れている「波」の大きさは、相当に大きい。

これがこのままもっと大きくなるのか、それとも再び「凪」になるのか、それが見えない。

先が穏やかになるのなら、大きな船に乗るのはいい選択かもしれない。
嵐が過ぎるまでは大船に乗って、その先を待てばいい。

ところがこの先、嵐がもっと大きくなるならば、「乗る舟」の選択は相当に考えなくてはならない。

舞鶴市民病院。医者がみんないなくなってしまい、もはや存亡の岐路に立たされてしまっている
施設だけれど、ほんの数年前までは研修医が門前列をなす、非常に有名な研修病院だった。

舞鶴に行くというのは、研修医ならば虎ノ門病院とか、聖路加や沖縄中部といった「ブランド」研修病院に
入るのと全く同じ。非常に名誉なことで、またその先のことはまさに「大船に乗った」気分でいられた。

それだけの病院が、市長の鶴の一声で簡単に吹っ飛んだ。1年もしないうちに医者は激減し、
今では病院の売却先探しに市が奔走している。もはや「舞鶴で研修します」などと言い出す研修医など、
誰もいない。

基本的には、「乗る舟」の大きさに逆比例して、研修の見返りは小さくなる。

大きな病院、特に国立の病院などは手続きが煩雑だし、雑用は多いし給料は安い。小さな民間の病院は、その逆。

自分の選択した施設の「舟の大きさ」がどの程度なのか。

タイタニックだって沈むときは沈む。原子力空母に乗ればまず安全だけれど、軍の舟に快適装備を
求めてはいけない。

嵐の読みと、「乗る舟」の査定。

このあたりが、運用期間を長期間に設定したときに大切になる。

##科の投機性と流動性
皮膚科と耳鼻科は、どちらが「強い」のか?

将棋の羽生名人と、プライド王者のヒョードル。どちらが強いのかを比べるぐらい、
比較の意味のない問題だ。この2人については、いつかチェスボクシングあたりで
対決してほしいけれど。

>「進路の選択に損得勘定など無縁で、あくまでも自分の興味で決めるべき。」

これは正論だけれど、自分の「本当に」やりたい仕事を見つけるなんて、
実際に就職して見ないと無理だ。

比較の仕様のないものを比較するには、何とかしてパラメーターを見つけるしかない。

就職については、「**投機性**」と「**流動性**」という2つのパラメーターが存在する。
投機性が少なく、流動性の高い科ほど「強い」。あとは、本人の希望に合っているかどうかだけ。

例えば産科。

見返りの少ない、非常にきつい仕事だというレッテルが貼られてしまっているけれど、
この科の投機性は低く、流動性は高い。今はなり手が少ないから、みんな後継者を育てようと
必死だ。仕事は忙しいかもしれないけれど、成長する上でのリスクは少ない。

その一方で、流動性は高い。

産科の足りない病院なんて探せばいくらでもあるし、緊急のお産専門などという地獄を歩む選択から、
カウンセリング専門のレディースクリニックの運営まで、「産科」という肩書きが役立つ分野は大きい。

これらのパラメーターは絶対的なものでなく、状況が変われば上下する。

もしも産科医が今の10倍いれば、当然競争は激しくなり、投機性は増す。就職できる施設も
限られて来るだろうから、流動性も減少する。

現在「おいしい」と言われている科も、実際そうなのかは、こうしたことを考えて見ないと分からない。

放射線科や、設備投資の必要なマイナー系の科というのは、案外投機性が高くて
流動性が低いのかもしれない。

自分は循環器内科からまた一般内科に戻るけれど、これもまた流動性を変化させたかったからだ。

循環器内科は、その投機性は低い。

もちろん向き不向きはあるけれど、自分のように「途中入社」組みであっても、
何とか心カテができるぐらいには育ててもらえた。たしかに仕事は楽勝では
ないかもしれないけれど、一生懸命やれば育ててもらえる。

当たり前と思うかもしれないけれど、これは本当は大変なことだ。世の中、一生懸命やっても
報われない事例なんていくらでもある。

自分がカテ屋を続けられなくなったのは、その流動性の低さによる。

心臓カテーテル検査室を作るのには莫大な設備投資が必要になる。患者さんの数は多いけれど、
県内で、心臓の治療ができる施設は限られる。大きな病院、いい病院に就職しようと思ったら、
どうしても競争が生じる。

一般内科医というのは、最悪机一つ、聴診器一本あればどこだってできるから、
もうスライムなみの流動性。どこにだってもぐりこめる。みんなから、**スライム並の
ザコ**だと思われるけど。

##相場の読みと大胆な選択
>「人の行く裏に道あり花(華?)の山」という言葉を知っていますか?
>人と同じ事をしていると利益は出ない(小さい)という事です。
>「分かってるよ!」と言う声が聞こえてきそうですが、
分かっていても実践できない(つまり分かってない)のが相場です。(中略)
>株の世界では、ビギナー人が利益を得たりする事が多いのです。
>それは誰も見向きもしない「裏の道」だからです。
>味をしめた素人さんは株式についての勉強を始めます。
すると次第に利益がでなくなってきます。理由は簡単。勉強する事によってみんなと同じ事をするからです。(中略)
>(作者の人が就職して何年か経って、株の名人に取引を勧めたときの話)
>「生意気な事言うようになったな」「だいぶ勉強したみたいだからおしえてやる」と言われ次の一言に驚きました。
>「すぐ億万長者になれるよ。お前が買いと思ったら売り、売りと思ったら買ってみな」
>もちろん出来るわけも無くいまだに私は貧乏です。つまり言いたい事は**ある程度勉強しなければ裏読みも出来ず、また相場には相当な決断力がいる**という事です。
>[元証券マンが語る「初心者が株をやる前に・・」](http://pmail-kabu.seesaa.net/article/13162020.html)より改変引用

先のことなんて誰も読めないし、不勉強なままに適当な未来予測をすると、やっぱり罠にはまる。

自分のスタイルにあった期間で予測を立てて、適切な投機性と流動性を持った銘柄を選んで。

その上でさらに、みんなとは違う道、相場の裏読みをして大胆な選択ができないと、投機というのは
成功しない。

その「大胆さ」のエネルギー源になるのが、バンクロールの大きさだ。

##持っている全てのものをバンクロールに置き換えること
バンクロールとは「手持ち資金」と訳される、賭け事のときに1回に投資できる金額のこと。

たとえば、カジノで同じ1万円を賭けるにしても、それがその日の金額の全てなのか、
1億円持ってきた中での1万円なのかでは、自ずから賭けの戦略は変わってくる。

ポーカーのプロ同士の対決などでも、試合が始まる前から勝負は始まっている。

試合当日にバンクロールをいくら持ち込めるのか。相手と同じだけの資金を確保できないと、
その時点で精神的には大きなハンデを抱え込むことになる。

進路選択のカジノの中でも、やはりバンクロールは重要になる。

目の前のリスクを取れるかどうか。ストレスに対する耐性。こういう部分に、
「バンクロールをいくら持っているのか」が効いてくる。

知識や技量が何もない研修医の時は、「バンクロール」として勘定できるのは以下のようなものだ。