Cheyne-Stokes呼吸と心不全

最近難治性の心不全の患者さんが何人か続いたので。

Cheyne-Stokes respiration in patients with congestive heart failure

Cheyne-Stokesと予後

Cheyne-Stokes呼吸は心不全患者によく見られる周期性の無呼吸であるが、この症状は予後悪化の危険因子にもなっている。Hanlyらの報告では、同程度の心不全患者の予後を比較した場合、2年間の追跡でCheyne-Stokesの無い患者では生存率が86%であったのに対し、Cheyne-Stokesを合併した患者では生存率は56%と低下していた。

Cheyne-Stokes呼吸を合併している心不全患者では、交感神経の緊張が増加していることがわかっている。いくつかの心不全患者の報告では、この中枢性無呼吸を治療することで交感神経の緊張が緩和し、不整脈の頻度が減ったとされている。この報告で用いられた治療手段はCPAP療法であったが、この治療を従来の心不全治療と併用することで、心移植待機中の心不全患者でLVEFの増加をみたという。

Cheyne-Stokes呼吸の原因

Cheyne-Stokes呼吸が生じる原因には大きく2説ある。ひとつは中枢のCO2濃度受容体の感受性更新によるもの、もうひとつは血液の循環時間の低下によるものである。

前者は、Cheyne-Stokes呼吸を生じている心不全患者のPaCO2が低下している観察から考えられた説で(対照的に閉塞性無呼吸の患者はPaCO2が増加していることが多い)ことから、左室拡張末期圧の増加により慢性的な肺のうっ血を生じ、このことがわずかなPaCO2の変動で実際の呼吸周期を大きく変動させてしまうと考えられている。また慢性的に生じた過呼吸の影響で、体内のCO2ストアが減少し、バッファーとして働く重炭酸の量が減ってしまうため、わずかなCO2の変動が容易に体液pHを変動させてしまうこともCheyne-Stokes 呼吸を招くという。

後者の説は犬の内頸動脈に細いプラスチックの管を挿入し、血液の循環時間を延長させたところCheyne-Stokes呼吸を再現できたという報告から生まれた説で、心機能の低下から患者の血液循環時間に遅延が生じ、このためCheyne-Stokes呼吸が出現するとされている。しかし、近年患者の血液循環時間とCheyne-Stokes 呼吸の発生とに必ずしも相関が無いことなどが報告され、Cheyne-Stokesの発生原因としては前者のほうがより有力になっている。

Cheyne-Stokes呼吸の頻度

心不全患者での報告ではCheyne-Stokesの合併頻度は55%から33%程度と幅がある。男性、血ガスでのPaCO2が38mmHg 以下、心房細動の合併、60歳以上といったものが危険因子となる。

この呼吸の出現頻度は夜間が多く、同じ患者群で日中のCheyne-Stokes呼吸の頻度は28%であったのに対し、夜間の頻度は71%であったという。



Cheyne-Stokesの治療

ベースに存在する心不全の治療が第一であるが、それらを十分に行ってもなお無呼吸が生じた患者に対する治療として提案されているものはCPAP、酸素投与、テオフィリンの内服、3%CO2の吸入、さらに心房ペーシングなどがある。

これらのうち、テオフィリン内服は不整脈の頻度の増加の副左葉があり、CO2吸入も睡眠の質の低下、脳浮腫の危険といった問題点がある。心房ペーシングは比較的新しい治療手段として紹介されているが、予後に与える影響などはまだまだこれから論じられる段階である。

CPAP療法は中枢性の無呼吸の患者であっても有効な治療手段として用いられてきたが、なぜこれにより無呼吸の改善が見られるのかはよくわかっていない。CPAP心不全自体に与える好ましい効果はいくつもあるが、同程度の心機能の患者であっても、Cheyne-Stokes呼吸のない患者においてはCPAPは予後を改善しなかった。

この治療手段の有効率は40%から60%程度で、慢性期にはコンプライアンスが問題になる。また、心房細動を合併した患者にCPAPを行うと心拍出量が減少することが報告されており、注意が必要である。BiPAPの使用はCPAPに比べて患者の認容性が増すが、血行動態や予後に与える影響はCPAPとの差は無かった。

酸素投与は、患者の呼吸ドライブを減少させることで周期性呼吸を改善させると考えられている。量としては2-4l程度で有効といわれている。

CPAPと酸素投与との比較では、有効率、交感神経緊張を緩和させる作用ともCPAPと酸素投与は同等であったという。

今から7年以上前の研修医のころ、まだまだ挿管が下手だった自分はBiPAPをみて「なんてすばらしい機械なんだろう」と感動し、呼吸不全という呼吸不全に狂ったようにBiPAPやCPAPマスクを投入していた。

幸い、当時の病院にはこうした非侵襲的換気の装置が10台以上あり、馬鹿が一人暴走しても「しょうがねえなあ」と容認してくれる病棟のスタッフがいてくれたおかげでかなり多くの経験をつませてもらった。

結果、自分で患者に非侵襲的換気を導入することはほとんど無くなり、今ではこの機械は厳密に適応を選ばないと有効性は発揮できないのではないかと考えるようになった。

BiPAPを忙しい病院で使うには、日本ではマンパワーが圧倒的に足りなすぎ、これにかかわっていてはほかの仕事が回らなくなるのではないかと思う。人手が十分にいる大病院ならともかく、地方で一人一般内科医などをやっていると呼吸不全の人はとりあえず挿管して病棟に放り込んでおき、その間に外来をさばかないとすぐに首が回らなくなる。かといってBiPAPをつけたままの人をほうりっぱなしにしておく事はあまりにリスキーで、不十分なマンパワーでこれをつけるのは患者さんにギャンブルを強いることになり、結局忙しさにかまけてほとんど使うことがなくなってしまった。