履歴書に傷をつけない転職

この10年で8つの病院に就職した。

この数が多いのか少ないのかは分からないが、ひとつの病院に勤務中に新しいドクターを迎える機会はもっと多かった。

病院の所帯は狭い。内科の医局で20人もスタッフドクターがいるような病院はまれで、たいていは数人単位。何年か一緒に仕事をしていると、話題もだんだんとマンネリ化してしまう。その中に新しい人が来るのだから、どんな人が来るのかには皆注目する。

「新しいドクターが来てくれるらしい」などという噂が流れてから、実際にその人が来てくれるまでの間は大体3週間。たいていは、どこからか履歴書の内容が漏れ聞こえてきて、「こんな人らしい」「留学したこともあるらしい」などといった噂話に花が咲く。

実際に履歴書を見ながらの歓談になった場合、必ず注目されるのが経歴の中の空白期間である。

どこの大学を出た、こんな論文を書いたといった内容からは、その人が実際にどんな人なのかまでは想像できない。どこの研修病院を卒業してきた、今までどんな病院で経験をつんでこられたといった内容は、あたりまえすぎて話題が続かない。

「いい先生が来てくれるといいですね」などという当り障りのない結論に話が落ち着いたところで、下衆な勘繰りを生きがいにする私のような医者は「この人、3年目と4年目の間に2ヶ月間空白がありますけど、いったい何してたんでしょうね…。」などと噂話に新たな燃料を提供する。

何もない空間には想像が膨らむ。この間にいったい何があったのか、どうしてこの人はイレギュラーな時期に病院を辞め、今またこの病院に赴任してくるのか。前の病院で何か人間関係のトラブルがあったのだろうか、病気でもしたのか、または何かの趣味に、病院を辞めかねないぐらいのめりこんでしまっているのか。

医者はどうしても転職が多く、病気やトラブルで同じ病院でずっと働けなくなることも多い。当院を辞めていく下級生にいつもアドバイスをしているのが、「履歴書に傷を作らないような転職を心がける」ということである。

要は就職していない期間を1ヶ月以内にすることで、月をまたがなければ履歴書に嘘を書かなくても空白期間は出来ない。空白期間がなければ、少なくともそれをネタに痛くない腹を探られることもなくなるわけで、新しい職場に行ったときに変な色眼鏡で見られなくて済む。

「次の病院に行く前に、2ヶ月ぐらい遊ぼうと思うんです」などという研修医が時々いるのだが、将来どうなるのか全く読めない昨今、気をつけたほうがいいと思う。