「たぶんウィルス感染症だけど、病歴に湿性咳嗽があったからクラビットも併用しようか…。」

研修医を終えてもやることは同じ。昔の上級生と同じように、
研修医と一緒に理学所見をとり、検体を染めて顕微鏡をのぞく。

ところが、その行為の目的は変化した。

「診断をつけるため」から、CTを撮るため、広域抗生物質を用いる言い訳へ。

「診察をする自分の頭」に対する疑念がますます強まったころ、耳元で悪魔がささやきだした。

>不安ならCTをオーダーしなよ。電話一本で確定診断だ。放射線の先生も残ってる。
患者さんもそれを望んでる。今の時間なら、検査室だってガラガラだ。
一緒に生化スクリーニング採血を出せば、検査室のスタッフだって業績が伸びて喜ぶ。
ほら、**チーム医療**って奴さ。医者がオーダーしなけりゃ何も始まらない。
君が学んできた方法論は古いんだよ。こんな時代だ。やせ我慢するな。楽になれよ。

5年目までは、悪魔に必死に抵抗した。

今までの方法論を守り、一生懸命理学所見をとり、患者さんから得られる最小限の情報を元に、自分の頭を最大限に使って診断名を考えた。一応そこそこ患者さんはついてくれ、外来に来る人は増えた。

午前中に診なくてはいけない患者さんは何十人にもなり、外来が定時に終わらなくなった頃、
自分は考えることを止めた。

「**悪魔の言うこと**」に従うようになると、業務がとたんに楽になった。

検査を出せば、みんなで考えられる。理学所見は一人よがり。
患者さんを病院中引き回すわけには行かない。画像は持ち歩けるし、
コピーも出来る。他のスタッフや、他科の先生の意見を聞いて回るのも簡単。
まさにチーム医療。

治療の決定も簡単になった。