「裏切るとこの組織から放り出すぞ」

名声の段階も末期に差しかかると、組織は恐怖を用いることで、求心力を保とうとする。

「その組織にいる名誉」がなくなり、「組織から放り出される恐怖」が、もはやモチベーションになりえなくなったとき、組織は崩壊の次の段階に進む。

##お金の時代
創業者の夢が切り開いた世界が成熟してくると、「二匹目のドジョウ」を狙う競合する組織がいくつも出現する。そうした組織は、後を追うものの強みで、勢いがある。

後発組みに比べて、最初の組織には勢いの衰えが目立つ。もはやそこには名誉ある開拓者の姿はなく、競合組織にパイが食われるのをおびえる巨人の姿しか見えない。

後発組織のトップが、「ダビデゴリアテ」の例えを引き合いに出して取材に答えているとき、最初の組織は例外なくゴリアテに例えられるようになる。

自分のいる組織の名声が衰えてしまうと、人はそこで働く意義を、**働くことにより得られるお金**に求める。

>もう冒険はこりごりだ。ここは大きく古く、鈍くなったけれど、まだまだ給料だけはいい。それだけでも、この施設で働く価値はある。

組織のメンバーのモチベーションは、進化を志向するよりは現状を維持する方向に発揮される。

この段階になると、団体の創世期からのメンバーが別の団体を作っていたりしている。

かつての仲間が今では競争相手。中の人は、自分の組織を他からの視点で眺めることができるようになり、自分の居場所に、周囲からの評判の悪い部分が目に付くようになる。

>患者からの感謝なし。家族からの評価なし。世間の評価は最悪でもはや賤業。
>訴訟のリスクを常に抱えていて裁判官の印象も最悪。
>こんな状態で金以外の何を信用しろと?

組織のモラルは低下する。トップは自己保身に走るようになり、幻滅した部下は、他のもっと見返りの大きい組織へと移っていく。

組織やチーム全体の志気が低下すると、そこから出て行くのは、組織で最も優秀な人たちだ。

彼らが一番不満を抱えていると同時に、転職できる可能性も高いからだ。優秀でない人たちは、給与に不満はあっても、今の組織を辞めると行き先がないことを自覚している。

優秀な人材が逃げ出せば、組織全体の生産性は低下する。生産性が低下すれば、残った人たちの仕事は増え、時間当たりの報酬は減少する。ますます労働条件は悪化し、その組織には魅力がなくなっていく。

>高邁な精神などDQN患者の前では消し飛ぶ
>こんな人を救うために医者になったのかと
>しかしそれでも仕事 それが仕事

あくせく働くことが馬鹿らしく思える頃、お金すらも、スタッフのモチベーションたり得なくなる。

##余暇の時代
もはや働くこと自体が「バカらしい」と考える人しかいなくなった組織は、**死に体**となる。

モチベーションのすべては「**定時に帰ること**」「余計な仕事を増やさないこと」にささげられる。
この段階になってしまうと、もう黒字を作ってくれる人はごく小数になってしまう。

競争の激しい業界では、経営が成り立つことは期待できず、組織は崩壊する。

一方で、この状態になっても潰れる心配のない団体が存在する。

地方公務員、郵便局員などの組織は、最初からこの段階から組織が生まれ、そのまま継続している。

こうした集団は、余暇の多さが立派なモチベーションたりうる。何もしたくない人にとっては、「何もしなくてもいい」組織というのは最高の職場だ。

公務員組織は、誕生当時から永遠に近い寿命を保証されている。

##人間の作る3つのシステム
組織のこうした経過というのは、ソフトウェアの進化の過程によく似ている。

UNIXの考え方」という本より引用。全ての優れたシステムというのは、以下のような3つの成長段階を経るという。