リスクの回避と、あえてリスクをとる場所を理解する


##まずは理解でなく暗記から
手術や手技を覚える場合、大事なのは手順を理解することではなく、手順を覚えるということだ。

覚えるというのは、文字通り暗記する。例えば手術の手順などでは、手術の参考書に書いてある切開の順番、そこで使う道具の名前、その道具で切ったり分けたりする組織の名前を、すべて暗唱できるようにする。**理解しようと思ってはいけない。ただただ暗記する**。

暗記というのは単なる労働。理解するというのは知的な作業。研修医は、手術前日などに手術書を読んで、手術の手順を「理解」しようと思うが、これは間違いだ。やったこともないものを、読んで理解できるわけがない。大事なのは暗記することだ。手術の手順を暗記することで、実際の手術を見たときに、効率よく「理解」ができる。

研修医は、理解を優先しようとして失敗する。大昔、手技は**体で覚えろ**と教わった。

>まず体験=>ひたすら体験=>そのうなんとなく理解=>手順を体で覚える

これでは、患者さんの命がいくつあっても足りない。理解のほうが暗記に優先するという考え方では、理解に至るまでの道程が、長くかかりすぎる。

これに対して、暗記を優先して、それから体験させるという考え方は、研修医の頭の中に「**理解のための概念ツール**」を作ることを第一の目標にする。全ての手技を丸暗記する必要はなく、実際暗記が必要なのは、手術なら最初の3つぐらい。あとは、応用が利くようになる。

>まず手順の暗記=>体験=>概念ツールを形成=>次の体験がすばやく理解できる

##理解のための概念ツールとは何か
過去に天才といわれている数学者の計算能力は高い。これについて、以下のようなことが考えられているのだそうだ。

>基礎的な計算能力については、脳には生まれつきビルトインされた専用回路がいくつもある。しかし、数学的天才はこの数のモジュールの性能が高いから、天才であるというわけではない。先天的な数学能力というよりも、後天的に身につけた「概念ツール」とでも言うべきものを持っているため、計算能力が高くなったのだという。