急変した際、今までと違うこの治療では、何に気をつければいいのか。

新しいものには、先の展開の読めない要素が山ほどある。

複数の科が合同で治療するとき、そこには必ずコミュニケーションのコストが生じる。
最新の治療のメリットというものは、しばしばその高いコミュニケーションコストに相殺されてしまう。

特に患者さんが急変したときや、急性期疾患を扱うとき、
あるいは3科以上の専門家が議論しながら治療を
決定するときなどは、「**見通しのいい古い治療**」というもののメリットは、まだまだある。

##鉄火場で役立つ古い道具
患者さんの呼吸が止まった。今まで作動していた機械が、なぜかトラブルを生じた。
医療機器の信頼性というのは相当高いが、それでも機械は故障するし、そもそも病人というものは、

故障した生体機械**だ。現場では、想定外の混乱というものはいくらでもある。

混乱した現場では、たとえ正しいことを言っても、周囲がそれを理解してくれなければ話が進まない。

急変した患者さんをモニタリングするのに、分かりにくいけれど「正しい」パラメータを使うのか、
あるいは多少劣っていても、見通しのいいパラメータを使うのか。
鉄火場で正しいのは、古くて分かりやすいほうだ。

例えばETCO2やSvO2。血圧とか、脈拍数などよりも患者さんの状態を正確に把握し、またより正しい
治療方針を決定できるパラメータとしてよく紹介される。ICUではよく使う。

それでも、こうしたパラメーターを、たとえば救急外来の外傷患者のモニタリングに使うのは絶対無理だ。

外傷蘇生の現場では、とにかく血を止めて、血圧を上げた奴が正義だ。
本当は、血圧はそんなに上げすぎないほうがいいし、
輸液も輸血もそんなに入れないほうがいい。わずかだけれど、そのほうが予後がいい。
それでも、いくつもの科が集まって「お祭り騒ぎ」になっている現場では、
そういったことは口にしないほうがいい。

祭りの現場で重んじられるのは伝統だ。祭りの最中に「信仰とは何か」などと議論をはじめる奴は、
綿流しされても文句は言えない。

想定外の事態が起きた時には、一瞬思考が停止する。
再起動直後の人間は、過去に経験したことと同じ動きしかできない。
急変の現場では、その原因を考える時間すら惜しい。
鉄火場では、システム全体のの見通しをよくしておかないと、みんなが正しい動きができない。

「**人工呼吸器管理中の患者が何であれトラブッたら、とりあえず呼吸器を外して手動換気**」
というのはICUの鉄則だが、
これもまた、手動の呼吸器という道具がもっとも単純で、「呼吸器をつながれた患者さん」
というシステム全体の見通しが良くなるからだ。

(以下、治療のカプセル化コンポーネント化は医者を幸せにするのか?という話題が続くはずでした…)