圧波形がきれいな3角形をしていたら、水分量としてはだいたい**いい線**をいっている

基本はこれだけ。足りないならどれだけ入れればいいのか。
そもそも本当に「足りない」のか。
アナログな波形判断だけでは答えは出ない。検査の感度や信頼性という部分では、
この検査は信頼性は低い。でも役に立つ。

このパラメーターのもっとも大きな利点は、それがリアルタイムの検査であるという部分だ。

動脈圧波形はいつでも見られる。心臓の拍動1回ごとに新しいデータがモニターに出てくる。
何か機械を操作したり、あるいは検査室からデータが返ってくるのを待つまでもなく、
データは常に目の前のモニターに反映される。

ICUの治療は、分からないときは手探りで「現物あわせ」をやっていくしかない。こうした状況では、
やったことがリアルタイムで繁栄される検査パラメーターというのは本当にありがたい。

心カテ中にトラブったときなどは、もうこの波形の形を元に戻すことだけを考えて治療する。
修羅場になったとき、カテ屋が「戻ってくれ!」とお祈りするのは、心電図よりも動脈ラインの
波形のほうだ。これが平坦になると、死んじゃうから。

動脈圧波形の解釈は本当に便利だ。その割りには、その解釈の方法、
波の形が変化した時、何をするのが教科書的に正しいのか。そうしたものを
まとめている教科書が見つからない。

いまの集中治療室は、いろいろな科の医師が寄り集まっている。

循環器内科やいろいろな臓器の外科。麻酔科や、集中治療の専門医。
どの文化圏の医師も、動脈ラインに「読みかた」があることは知っている。

それでも、その読みかたは現場の言い伝えレベル。今回、いい機会なので調べようと思ったのに、
まとめて解説している教科書や論文が見つからない。面白そうなのに。

##デジタル時代に滅んだ検査
医療の分野も、デジタル化が進んでいる。

検査データや画像を電子化して取り込むのは当たり前。
様々なデータもまた、その解釈の方法がデジタル化されつつある。

見えたものをそのまま描写するのは時代遅れ。
病理組織は免疫染色で定量化され、画像は数字で表現される。
循環器の領域。心臓の動きや血管の狭窄度は、コンピューターが測ってくれる。

デジタル化に伴って滅んだ学問、滅んだも同然の検査も多い。

経静脈波。心尖拍動波。様々な心機図。ベクトル心電図。聴診や理学所見だって滅びつつある。

これらの検査に共通するのは、数字で表すことができないという点だ。

##デジタル化しないと伝えられない
数字にならない検査では論文にならない。

経静脈波や心尖拍動波。胸に当てたプローべで心臓の波を拾う検査だから、
人によって正常値が違う。「ゼロ点」に相当する概念がない。
同じ人で毎日計ったって、その波形は毎回微妙に違ってしまう。

心機図やベクトル心電図。心臓の「動き」を波形化した検査では、その周波数は2Hz前後。
1秒間に1から2回しか動かないから、その波形変化を数字にするのはとても難しい。

アナログデータは教科書も書きにくい。

検査そのものに「正常値」が存在しないから、**正常とは何なのか**を表現しにくい。
アナログというのは「正常」のアナロジーでしかないから、正常を知るには
正常な症例を何百例も積んでみるしかない。

数字で表せるデジタルデータの見かたなら、正常値を書けばそれで済む。
正常ならば、何もしない。正常値を外れたら、対処を考える。

同じ波形解析の検査でも、心電図や脳波はデジタル化しやすかった。

両方ともアースをとるから、ゼロ点がはっきりしている。心臓の動きに比べれば、
脳波や心電図の周波数ははるかに高いから、デジタル化して波形を解析するのも何とかなる。

心電図の自動診断。麻酔中脳波のエントロピー解析。莫大な脳波情報の視覚化。
24時間心電計の心拍変動解析。デジタル化は様々な恩恵をもたらし、
今まで見えなかったものを見えるようにしてくれた。

##AD変換の過程で失ったもの
デジタルデータは便利だ。それでも、「生データ」は常にアナログ情報だ。

アナログをデジタル化する段階で中間情報は失われるし、
医者はそのデジタルデータをみて、全体的に「悪い」とか「良くなってる」とか、
総合的に、アナログ的に判断する。

昔のお医者は偉かった。患者さんを聴診器一つで診断できたし、
我々の世代では「わけの分からない波」にしか見えない経静脈波を解釈して、
心臓の中の様子を予言する。いまは無理だ。アナログデータをアナログのまま
解釈する技術はすたれてしまった。

変換の過程で絶対に情報の欠けるデジタルデータと、
言葉で表現すると絶対に正常を表現できないアナログデータ。

心電図の解析。本当は12誘導を頭の中で再構築して、元の心臓の形を想像しながら
読むやりかたというのがあったのだが、正常な人をそれこそ何千枚もみないと
伝わらないので誰もやらなくなった。

そして動脈圧波形からの水加減の推定。非常にきれいな波形だし、ゼロもしっかりとれる。
多分誰かがやっているはずなのだが、なかなか検索に引っかからない。

アナログをアナログとして伝えるやりかたで、誰か動脈ラインの解析のしかた、
まとめてくれないだろうか。