「あなたの車は湘南ナンバーのシビックでよすね。フフ。」

何かのお願いをするとき、こんな言葉を最後に付け加えると、公務員の人達は喜んで動いてくれる。

##風は吹くのではなく吸引される
風というのは、「吹く」ものではなく「吸引される」ものだ。

空気のような物質をいくら押しても、力を加えたほんの一部をのぞいては、空気は動かない。
もっと強い風を起こそうとして、いくら強い力を加えても、その分逃げる空気の量が増えるだけだ。

>自然界の風というのは、気圧の高い部分が空気を押すのではなく、
気圧の低い部分が空気を「吸引する」ことで大量の気体が動く。

押す力が効果を及ぼす範囲は狭い。
広い範囲に効果を及ぼすのは吸引力だ(**B.フラー**の受け売り。元本忘れた)。

空気のようにつかみ所のない、平等な社会や組織を本気で動かそうと思ったら、
その人達を「押す」ことを考えずに、「吸引する」ことを考えなくてはならない。

##空気と同じ挙動をする大きな集団

>(計算偽造マンションをつかまされてしまったときのローン対策として)
結論から言えば、ローン引き落とし通帳の残高を「0」にします。
>(中略)銀行は「払ってくれ」と督促してくるでしょうが、無視します。
>(中略)自治体が家賃を補助あるいは免除してくれるなら、それはそれとして受けて、
ローンの支払いは「凍結」します。
>(中略)当然に銀行は抵当権を設定しているハズですから、ローンの支払いを止めて、
銀行に「約束どおり抵当物件を差し出せばよい」のです。
>[悪徳不動産屋の独り言: 構造計算偽造問題、私が被害者ならこうする](http://akutoku.seesaa.net/article/10467651.html)より引用

実現可能性は分からないけれど、非常に理にかなったやりかただと思う。

銀行組織、あるいは国家という組織は極めて統率のとれている大集団だけれど、
個人が相手にするには大きすぎて、
まったくつかみ所のない相手だ。

偽造マンション騒動。国に陳情をしたり、業者を訴えたりしたところでマンションを
買ってしまった人の「負け」は見えている。払ったお金も返ってこないだろうし、
銀行はきっちりローンを持っていく。国は国で、形ばかりの同情の念は示しても、
選挙前でもなければ十分な補償はないだろう。

引用先の文章では、読む限りでは極めて実践的な解決方法を示してくれている。

銀行相手にローンを組むという行為は単なる借金などではなく、
不本意な取引をしてしまったときのリスクの一端を銀行が担ってくれるという点で、
(ちゃんと利用すれば)極めて有効な消費者保護の手段なのだということがよく分かる。

リスク回避装置としての銀行組織を「正しく」利用できないとき、
例えばローンの免除をマスコミや国に訴えてみたり、
業者の非道さを声高にアピールしたりしても、多分銀行は全く動じない。

消費者が引用先の文章のような行動をとり始めると、話は違ってくる。

今回のマンション騒動では、**「国-業者-消費者-銀行」というシステム**の中から、
消費者は合法的に抜け出すことができる。

生態系というものは空白を嫌う。

あったものがなくなってしまうと、残されたものはその空白を埋めようとする。
業者の資産を身ぐるみ剥いでみたり、国とやりあって保証を分捕ったりといった

力業**を必要とする作業は、消費者の空白に「吸引された」銀行が、肩がわりしてくれる。

個人はそうは行かない。消費者が銀行に「力をかしてください」といくら強く訴えたところで、
それが実現することはないだろう。銀行という巨大な組織は、個人がいくら「押した」ところで、
組織を動かさない理由などいくらでも考えつける。

大きな集団を交渉の席に引っ張り出すには、その人達を「押す」手段を考えるのではなくて、
「吸引する」方法を考える必要がある。

##真空の生む力を利用するには
生態系というものは安定していて、外乱に強い。

森林を伐採しようが、乱獲を行おうが、よほど無茶をしないかぎりは生物は絶滅しないし、
また何かの生物が抜けた**ニッチ**はすぐ埋まる。外からどんなに力を加えようと、生態系は
変形することはあっても、変化をすることはない。

生態系に根本的な変化をおこそうと思ったら、その系の中の「**キーストーン**(要石)」
にあたる種を探すことだ。

その生態系を維持している中枢、キーストーンとなっている種は、場所ごとに違う。
それは食物連鎖の頂点に立つ肉食獣であるときもあるし、
多くの動物が餌として依存している植物であることもある。

キーストーン以外の種が減少したり、あるいは何種類かが絶滅したりしても、生態系は維持される。
その種が占めていた空白は他の種がすぐに埋めるし、そのニッチがそのまま空白になってしまっても、
その場所の生物の総量は、そう大きくは変わらない。

ところが、キーストーンとなっている種が絶滅すると、話は大きく変わる。

天敵となっていた肉食獣がいなくなった牧草地では草が食い尽くされ、砂漠化する。
逆に、広大な牧草地のただ1種類の草が外来種に侵略されてしまうと、
その草に依存していた草食動物が激減して、やはり
生態系は大きな変化を余儀なくされる。

真空の力を利用して、社会に大きな変化を起こそうと思ったら、以下の2つの条件を満たす必要がある。