よくテレビに出てくる心臓外科の先生にしたところで、外国から帰ってきて、当時は無名だった

某病院でICUナースをリクルートするところから初めてチームを作り、弟子を育て、その後
別の病院に移られてから、もう一度同じことを一からやり始めている。

「開拓者」が来た病院は、歴史が変わる。病棟の雰囲気も一変する。

開拓者の先生方は人を育てるのが上手い。チームはどんどん大きく、
また効率がよく動くようになる。

創生期のベンチャー企業と同じく(知らないけど)、そこで働くことは楽しく、
入院患者数や症例数も倍倍ゲームで増えていく。

開拓者の来た病院では、争いごとは避けられない。

アメリカの開拓者だって先住民との間に殺しあいがおきたように、開拓者が版図を広げようと
する際、もともと居た「先住民」との抗争というのは、避けることができない。

組織は変革を余儀なくされ、出る杭は打たれる。
「先住民」組織のトップが開拓者を100%支持してくれれば、そもそもそうした問題は
おきないのだけれど、トップというのは常に「**事なかれ主義**」だからトップを張れる。
開拓村は大きくなっても、どうしても戦争の不安を無くせず、緊張は解けない。

「開拓者」の先生方というのは、もともと飛びぬけて優秀な人が多いから、
「呼び声」は常にかかっている。「開拓者」はいつでも、どこにでも行ける。

開拓者の先生方の移動も、また一人だ。有名になった医師であっても、
移動先には一人でいって、そこでまたチームを作ることが多い気がする。

##全部もって来る「将軍」
人当たりが今一つでも、「腕」一つで周囲をねじ伏せるような人もいる。

こうした人が一人で動いたって、成功するわけがない。回りはついてこないし、
最初から敵に回ったりする。

ところが、腕の立つ医師が「軍隊」を引き連れてくる場合、この移動はそれなりに上手くいく。

軍隊というのは、世界中どこでも作戦ができるよう、「そこにあるもの」は原則として利用しない。

災害派遣などで軍が出動するときにも、寝泊りするのに地元の公民館を使ったり、
民家のトイレを借りたりはしない。全部持っていく。
効率は悪いけれど、「いつでも、どこでも、どんな状況でも」すぐに作戦行動を始めるには、
この方法が一番だ。

「将軍」は、内なるカリスマだ。移動するときは、チームごと移動する。

その移動は大事件になる。前の病院の悲鳴は聞こえてくるし、
移動後の病院では医局の一角をいきなり占拠されたりする。けっこう揉める。
「原住民」はみんなブーたれる。

それでも、外野を無視して将軍のチームは働き出す。下手をすると、患者ごと連れてくるから、
外来はすぐに稼動する。手術室の日程はすぐに埋まり始め、原住民の悪い予測は
すべて目の前の現実にとって代わられる。

どんなに違和感があっても、うまくいっているものに慣れるのは、想像以上に早い。

「将軍」たちが勝手に仕事を続けているうちに、他の「原住民」もまた、自分達の現実へと帰っていく。

「将軍」たちがやってくるということは、古い切り株に「接木」をするようなものだ。木は確実に
大きくなり、またもともとの木のリソースが喰われることはなく、葉っぱの枚数だけが増える。

そのかわり、軍隊というのは来るのも突然なら、撤収も突然だ。

ペイが悪い。医局で喧嘩。正直「どうでもいいんじゃね?」と思うようなことで、
「軍隊」は将軍の号令一下、大移動を始める。

軍隊が去った後の病院の後始末に行ったことがあるけれど、
残されたスタッフはもう茫然自失。10人単位でまとめてスタッフがいなくなり、
外来表は空っぽ。荒廃した医局の引出しには未使用のボールペンがあふれ、
まだ電源の入ったG3マックが置きっぱなしになっていた…。

##拝み屋と開拓者と将軍と
旅人の3つのスタイルの違いというのは、たとえば就職後の周囲とのコミュニケーションの違いだ。
拝み屋はなじむ。開拓者は戦う。将軍は勝手にやる。

受け入れ先から求められるものも違う。拝み屋なら維持。変革を求めるなら開拓者を探さなくてはならないし、
即戦力なら将軍じゃないと無理だ。

社会は変化し、病院の環境もどんどん変化する。今までは安定した「原住民」でいられた人も、
また「旅人」になるのを余儀なくされる。

自分がどんなスタイルが取れる医師なのか、または、将来どんなスタイルの医師になりたいのか。
「拝み屋」が「開拓者」になりたくなったとして、30も過ぎてからジョブチェンジなんてできるのか。
帝王学みたいなものがあって、開拓者とか将軍やってる人達っていうのは、
最初からもう違っているのか。

たぶん自分は「拝み屋=begger=乞食」のスタイルでここまでやってきて、
自分が経験してきた組織内での振る舞いかたとか、「群れる技術」みたいなものは、
別のスタイルの人から見れば参考にならないどころか、お笑いにしかすぎないわけで。

今に見てろとか、自分もいつかとか、このままでは終われないとか。

余計なことを考えては無茶したり、抱え込んだり、喧嘩をしたりしてまたトラブル。

これは成長の過程なのか。それともまだ自分のスタイルを悟れてないだけなのか。

次の病院では、トラブらないといいな…。