交渉ごとにかけられる時間の多さ

たぶん、「**持っている夢の大きさ**」なんていうのは、本当は最強の
原資で、世の中のすごい人達はこの原資の大きさが
とてつもなく大きいんだろうけれど、自分には夢を原資に使う方法が分からない。

夢のない話。

##交渉力の最初は原資をそろえること
交渉相手が必要な「何か」を持っているとき、その「何か」が欲しくて交渉が始まる。

交渉の目的と原資が一致する交渉、「あなたのその地位を下さい」とか、
「あなたのお金を下さい」というのもあるけれど、
普通はその人に何かをしてほしいとか、自分のやることに協力してほしいとか、
交渉を通じて得たいものは、原資とは別のもの。

何かの交渉をするときは、原資の量を少なくとも同じにするか、相手よりも上回らないと、
そもそも交渉の席につくことすらできない。

たとえば病院での、転科の交渉。

医学的にはそれがどんなに正しい要請であっても、内科側の交渉人が研修医1人で、
相手の科が教授回診の真っ最中だったら、もうその時点で負けは決定。

転科の交渉は、立場の強さが原資。
交渉を開始するなら、白衣を着た人間の数をそろえるのは最低条件。

##弱い原資を武器にする
相手と自分との交渉力の差が決定的に開いていても、
相手に不利な原資を見つけて、それを交渉に持ち込むことができれば、
弱い立場でも有利な交渉を行うことができる。

スティーブ・ジョブズ氏が Apple にCEO として復帰した頃、Apple 本社は
資金難で倒産の危機に瀕していたそうだ。

>まず底を尽きかけている現金を増やさなければ、なんの対策も打つことができない。
>そこで考えたのが「**Appleが潰れると困る会社はどこか?**」だった。
>その答えはスグに見つかる。Windowsの寡占が進む中、
何かと批判を浴びがちなMicrosoftが、ライバルとしてのAppleを必要としていたからだ。
>[週刊モバイル通信](http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0711/mobile348.htm)より引用

Appleマイクロソフトと提携関係を結ぶことで持ち直し、iPOD の大ヒットにつながった。

社会的な立場はマイクロソフトのほうがはるかに上だったけれど、
Apple が舞台から去ることで、その立場が危うくなる可能性があった。

Apple は自分の弱さをうまく利用して、ライバル会社から有利な譲歩を引き出せた。

立場というのは、もちろん強いほどいいのだけれど、「失うものがない相手」には、
立場の力は全く無力。このとき原資のバランスはひっくり返り、立場の強さに
頼ったほうが「弱く」なってしまう。

お金の問題も、たぶん同様。

お金をたくさん貸している立場の人にとって、もっとも怖いのが
「自己破産しますけど何か?」と開き直られること。

「使ったお金は返さないといけない」という道徳がみんなを縛っているけれど、
高利貸しも、病院も、このはかない道徳が無視された時点で崩壊するのは
どちらも同じ。

お金を持っている人との交渉というのは、「**その人から借金している人**」が
一番有利な交渉人だったりする。

##時間のある人の強さと怖さ
医者という仕事をやっていて一番怖いのが、時間のある人に絡まれること。

自分達の社会的な立場というのはそこそこ強くて、
経済的にもそこそこに恵まれているほうで、世の中の交渉ごとには
結構有利な原資を備えているのだけれど、時間だけはもう絶望的なぐらいに全く無い。

その一方で、自分達には相手との接触を断る権利は全くなくて、
「話をさせて下さい」「診察をして下さい」という人が来たら、
基本的には絶対に断れない。

社会的に持っているものが少ない人というのは、しばしば「時間という原資」だけは
大量に持っていて、そういう人がしばしば、
医者を罵倒するのだけが生きがいだったりする。