一人で犯人を追いかけようとして、犯人が逃げそうになった

犯人を追い詰めるこうした状況は、自分の身の安全が保証されないならば、
追いかける警察官をもまた追い込んでいく。

警察は、自分で自分を追い込んで、容疑者を射撃せざるを得ない状況を作ってしまった。

刑事ドラマというのは、即興性に優れた主人公が、職人の集団の中で活躍する物語だ。

犯人を一人で追い詰めざるを得ない状況というのは、まさに即興性が求められる
ときなのだけれど、本来はそんな状況を作らないためにルールがあり、
それを遵守することで職人が活躍できる。

##「ゴッドハンド」はなぜいなくなったのか
医療のレベルが低下している。

新聞では連日のように医療ミスが叩かれて、
日本の医療のレベルは地に落ちたような報道が続いている。

実際の事故率とか、死亡率といったものは決して悪くなっているとは思えないけれど、
医療のレベルがジワジワ落ちているのはある意味真実だ。

ブラックジャックになりたかった某心臓外科医とか、「大リーガー」医師を海外から
招きまくっていた某内科医師とか、本当に優れた腕を持って、いろんな武勇伝を
作ってきた医師の数というのは、たぶん減っている。

時代は進歩した。神がかった腕とか無くても手術はできるし、
触診ができなくてもCT 撮って読んでもらえば、たいていは大丈夫。

マニュアルや診療ガイドラインといったものの進歩で、それをきちんと守っていれば、
そんなに大きなミスはしなくなった。少なくとも、平均値としての医療のレベルは、
たぶん向上しているはず。

それでも「神」の数は減ってきている。

それは、医療の技術の低下によるものではなく、みんなが同じ医療をする時代、
「正直者」の医師が増えてきて、マニュアルから逸脱することで大成功を
おさめる医師が減ってきたからだ。

マニュアルなんて無かった時代は、各自の即興性だけが成功率を決めた。
とんでもないヤブもいれば、「神」もいた。

技術が進歩して、「神」の足跡がマニュアル化されて、それを守ることに長けた「正直者」が
業界に参入してた。平均の成功率は上がったはずだけれど、成功率の分布の幅は狭くなった。

よくできたマニュアルは、正直者を守るとともに、即興者の手足を縛ってしまう。

みんな頑張っているつもりなのだけれど、「神」がいなくなってしまったように見えるとすれば、
たぶんこういうことだ。

##臆病な正直者を罰したときにおきること