総医療費を抑制する

前者の目標に対しては、このルールにも穴がある。

たとえば、いろいろな患者さんを紹介してくれるような、
「友達の多いヤブ医者」も、もしかしたらポイントが稼げるかもしれない。

ところが、そういう医師は、自分の手に余る患者は、上手な「友達」にすぐ投げるから、
結果として患者さんが上手な医者にかかれる可能性が増える。

ノード間の関係を変えるやりかたというのは、査定が正しく行われているのかどうかはともかく、
得られる結果は案外正しい。

医療費については、かなり正確な予測が可能だ。

医師から公平に剥奪する「ポイントあたりの診療報酬」と、ポイントを獲得した医師に対する
報酬との間に差をつければ、トータルの医療費がどの程度抑制されるのかを読むのは可能だ。

最初の1年は、もしかしたらあまり医療費は下がらないかもしれないけれど、
データがそろった2年目以後は、
相当正確な「読み」が可能になるだろう。

##ボトムアップの世界に魔物はいない
「ノード」に触らずに「関係」のみを変化させるこうしたやりかたには、
悪役が存在しない。

このやりかたを駆動するのは経済だから、
エースナンバーをつけられた医師は必然的に忙しくなる。

忙しい「上手な医師」と、そうでもない「そうでもない医師」とに区別されるから、
医師一人一人を査定するやりかたよりは、不公平感も少ない気がする。

ルールが簡単で、そこから発生する解答例だけが複雑に展開するやりかたは、
プレーヤーにとっての最適解が分かりにくい反面、
管理者が結果をコントロールするのは楽だ。

みんなが管理者の裏をかこうとして知恵を絞る余地があるから、
医師全員に試験を課すやりかたよりは、たぶん厚生省が恨みを買うことも減るだろう。

ポイントというのは一種の通貨として機能するから、
たとえば学会の長老先生達のポイントを貯めておいて、
優秀論文や見事なライブ手術の商品として授与するとか、
いろいろな使い方もできるかもしれない。

完全な方法なんてないし、自分の考えがいたらない欠点というのもあるんだろうけれど、
目標が患者利益と医療費抑制だけならば、案外上手くいくんじゃないだろうか?

厚生省の目標が、単に「**天下り先を増やす**」だけなら、そもそもこんな方法、論外だろうけれど…。