歯垢は院内肺炎に直結する

A Reservoir of Respiratory Pathogens for Hospital-Acquired Pneumonia in Institutionalized Elders

歯垢で繁殖した細菌が気管内に誤嚥されると肺炎を生じる。この機序は特に、入院期間の長い高齢者の院内肺炎の原因になりうるといわれていたが、その証明を試みたスタディ

ICUに入室した49人の患者に、入室時に歯垢を採取し培養を提出、入院中に肺炎を生じた患者について気管支鏡を行い、肺から採取した細菌と歯垢の細菌のDNAパターンを比べた。

肺炎を生じた10人の患者から採取した13検体のうち、9検体は歯垢の細菌パターンと非常によくマッチした。歯垢から採取した細菌で最も多かったのは黄色ブドウ球菌、その次に腸管内のグラム陰性桿菌、さらに緑膿菌が続いた。

寝たきり老人の多い施設で働いていると、中途半端に数本歯の残った高齢の患者さんを多く見かける。脳梗塞などで誤嚥が多く、胃瘻が入っているような方では口が使われることが少なくなり、さらに口腔ケアを行うにも残った歯が邪魔をしてなかなかきれいにならない。

こうした患者さんに全抜歯を行うと、口腔ケアはガーゼで口腔内をぬぐうだけで非常にきれいになり、また肺炎の頻度も低下する。以前一緒に働かせていただいていた口腔外科の先生の話では、歯科領域では全抜歯による肺炎頻度の低下というのは統計的に証明されているのだそうで、患者さんやその家族からの同意が得られれば、誤嚥性肺炎を繰り返す患者さんの予防手段としては非常に有効なのだそうだ。

たしかに、口腔の粘膜面であれば細胞1枚下には白血球が遊走して細菌を殺せる環境が整っているのに、歯の表面はこうした自浄機能がまったく働かない。白い外見とは裏腹に、細菌学的には非常に不潔になりやすい部分であり、中途半端に何本か残っているぐらいなら診るほうとしては無いほうがありがたい。

実際のところは、肺炎予防の話をしても家族から全抜歯の同意が得られるケースは本当に少ないのだが。