ローテート研修総括

研修医が病院内の各科を回るシステム、ローテート方式の研修システムは、そろそろ最後の4半期に入る。いままでいろいろな病院を転々としてきたが、この1年間は大学病院で研修医を迎える側からこの研修システムをみることが出来た。分かったことをいくつか。

ローテートは「勝ち組み」と「負け組み」が非常にはっきりと出る

典型的なローテート研修では、研修医は7-8人のチームで3ヶ月ごとに各科をまわる。実際に仕事をしながらの研修で、3ヶ月という時間は非常に短い。全くの初対面の人間どうし、同じチームの一員として違和感なく働けるようになるには、早い研修医でも2週間、遅い研修医になると2ヶ月はかかる。

研修医が新しい科のスタッフから受け入れられるまでの時間は単なるお客さん、実のある研修は出来ない。この期間を短くできるレジデントは「できる奴」「優秀な奴」として同じ3ヶ月の中でもより多くの教育を受けることができる。一方、人見知りをするレジデント、自分を表現することが下手なレジデントは「お客さん」でいる期間が長く、結果として「やる気のない奴」というレッテルを貼られてしまう。

自己表現の上手な人、初対面の人と友達になるのが早い人は、ローテート研修というシステムでは非常に有利になる。一方で地味な人、人見知りをする人、人の陰に隠れやすい人は不利だ。

いくらまじめに勉強してきたところで、実地の臨床で必要な知識といわゆる「医学知識」とは全く違う。逆説的だが、病理や生理の知識が役に立つのは病棟業務が落ち着いてこなせるようになった3年目以後のことで、1年目や2年目のうちはそうした知識をいくら豊富に持っていても評価の対象にはならない。

これが従来型のストレート研修なら話が違う。地味な奴でも2ヶ月もいっしょに働けば顔も覚え、レジデントの性格や「ノリ」といったものも把握できる。ある程度時間がたって、チームで一緒に働けるようになったときには、寡黙でまじめなレジデントは「確実さ」「信頼感」といった自分の特質をアピールできる。

しかし3ヶ月しか時間がない場合、やっとこうした部分が周囲に認められたときには科が変わる。レジデントの情報は全くといっていいほど次の科には引き継がれず(逆にいうと、大きな病院では「研修医のブラックリスト」など存在し得ない。みんな自分のことに忙しすぎて、作るひまがない)、新しい科ではまた「よくわからないけど地味な奴が来た」からやり直しである。

ローテーターは後半のチームほど点数が辛い

どこの科にいっても、年の後半に回ったレジデントに対する評価は厳しい。1年目の研修医とはいえ、後半に入ってくると病棟が研修医に期待する部分は大きくなり、実際レジデントが病棟業務で活躍してくれることも多くなる。

自然、スタッフもレジデントの力に頼ることが増え、結果としてチーム換えが行われた際、「あいつらこんなことぐらいやっておいてくれたのに、何で先生出来ないの?」という台詞が病棟で飛び交うことになる。

もちろんまた2ヶ月もすれば、どのレジデントもほとんど同じように力を発揮してくれるのだが、スタッフの中には以前の研修医の思い出が残り、「あいつらのときは即戦力になったのに…」という記憶は現在回っているレジデントへの厳しい評価につながる。

公平な評価など期待できない

従来型のストレート研修にも欠点はある。卒業と同時に選択した科以外をローテートすることはまずありえない。研修医時代の初期にスタッフの機嫌を損ねようものなら、その後の一生が台無しになる危険だってある。

折り合いの悪い上司とぶつかり、まともな評価が与えられないまま心を病み、「潰された」研修医も全国レベルではものすごい数に上るだろう。

ストレート型、ローテート型の研修システムはどちらが優れているというものではなく、今のところは「臨床研修」というゲームのルールが変わったに過ぎない。スタッフサイドの意識改革が今後もあり得ない以上、ルールがどう変わっても「誰かが不利になり、誰かが有利になる」ことは変わらない。

ルールの変更により、従来は不利をこうむった研修医は有利になったかもしれないが、一方で従来は不利でなかった「まじめで地味な研修医」という連中が不利になったというだけだ。

ならどうすればいいのか

研修医をまともに評価しろ、というお叱りの声は必ず出るだろうが、スタッフだって人間だ。しょせんは研修医のごく一部の部分しか評価できるわけはないし、好き嫌いもある。「スタッフはきっと、どこかで研修医の努力の成果を認めてくれる」なんていう話はあるわけがなく、努力をするにしてもスタッフの見ている目の前でやってくれなければ分かるわけがない。

現在のローテート研修のシステムの中で自分を生かすには、一刻も早くチームに自分を紹介すること、「私はこんな奴です」という分かりやすいキャラクターを自分で演じつづけること、「この人とはどうやっても合わない」と思ったら絶対に自分を責めずに、次のローテーションまでの時間をじっと待つことである。

つまらない上司にあたってしまった不運を嘆いている時間はない。

下級生には、求められている優秀なレジデントの資質、「The Right Stuff」を以下のように説明している。

レジデントの優秀さとは、飲み会の席上で裸踊りを披露しなくてはならない雰囲気になったとき、いかにためらいなくパンツを下ろせるかがすべてだ。

もちろんそんなスタッフばかりではないし、そう思わないスタッフも多い。一方、昔ながらの体育会系のスタッフはやはり集団の中でも勢いがあり、「声が大きい奴が勝つ」という昔ながらの医局システムではこうしたスタッフの意見はやはり強い。

結果、おとなしいスタッフに受けのいいレジデントよりも、ためらいなくパンツを下げられるレジデントの評価は上がる。自分は、パンツだけは勘弁してもらったけれど…。