初心者の手技はなぜ怖いのか

##エルステ寿司
昔の外科では、どこの病院でも「エルステ(初めての)寿司」という
習慣があった。

初めての虫垂炎。初めての胆摘。若手の外科医がなにか新しい手術の執刀医となったとき、
あるいは新任の外科の先生が新しい病院での第一例の執刀医となったときに、
周囲のスタッフに寿司をご馳走する。

おごる範囲は広範。前立ちをしてくれた先生や、手術室のスタッフ。病棟ナースなど総勢十数名。
新人の頃、新しい手技を覚えるたびにこれが何度かあり、けっこう痛い出費になった。

1年目、2年目はどちらかというとお礼をする側。
そのうちなんだかんだと年をとって、おごる側からおごられる側に回ると、
今度は新人の夕飯代を持つ義務が出てくる。結局同じ病院で働くかぎり、結局損得は生じない。

このお寿司の意味というのは、見守ってくれた人への御礼というよりは、
初心者の手術を見守ってくれた恐怖に対する報酬のようなものだ。

##初心者の手技はなぜ怖いのか
初心者は危なっかしい。自分が手を出せば簡単に終わるような手技も、
教育上はそう簡単には手を出せない。

手技というのは、自分で最初から最後までやらないと絶対に身につかない。
人を育てようと思ったら、とにかく見守るしかない。

初心者の手術を見守るのは怖い。何年たっても怖い。慣れるどころか、
年をとってますます怖い。

初心者の手技の恐怖はなぜ慣れないのか。たぶん、それが**予測に対する恐怖**だからだ。

##他人の運転する車は怖い