「やる気」の演出が下手

たぶんこれだけ。勝つためにはプラスアルファの要素が欠かせないけれど、
「負けない」ようにすることは、決して難しくない。

前任の友人には引継ぎをしっかりさせる**。書類の書きかたを教えてもらったり、

機械の操作を教えてもらうときには、そもそもその書類がどこにあるのか、
機械を管理している技師さんのPHSの番号、そういった細かいものまですべて白状させる。

上級生には「ですます」で話す**。相手を尊敬しようが見下そうが、そんなことは関係ない。

大事なのは形であって、中身じゃない。3ヶ月しかないんだから、中身なんかなくても大丈夫。

清潔な白衣を着て、毎日風呂に入る**。帰れる日は意地でも帰って、服を着替える。

小児科を回るときには、轟轟戦隊ボウケンジャー仮面ライダーカブトの登場人物ぐらいは
暗記していて当然。

病棟茄子のコールは、いつもにこやかに受ける**。

「自分は能天気な馬鹿だ」と、自己暗示をかけつづける。
「時間外に僕を呼ぶのは、どんな理由なんですか?」なんて絶対いわない。

簡単なことだ。

##苦手は研究の母

>直感とは異なり、どうやら人は自分が苦手なことを研究テーマに選んでしまうことが多いらしい。
>調べてみたところ、苦手なことを研究テーマに選んでしまう傾向は「専攻分野反転の法則」とか「研究補償説」と呼ばれる定説だということがわかった。
>こういう傾向は計算機科学に限るわけではなくて、言語学の研究者は何をしゃべっているのかわからない奴が多いし音楽学の研究者は音痴が多いらしい。人生いろいろである。
> (中略)
>「好きこそものの上手なれ」とか「必要は発明の母」と言うが、実は「苦手は研究の母」なのである。
>なんでも得意な人は新発明が苦手なはずである。ちなみに最高に頭が良い人は工学の研究者には向かないらしい。何ができて何ができないか最初から予測できてしまうからだという。苦手がない人は工学の研究には向いていないのかもしれない。
>[苦手は研究の母?](http://pitecan.com/articles/JSSST/nigate.html)より引用

誰だってあるのが、得意不得意。
相性のいい上級生と、そうでない人。

腕の立たない上級生なんか、何を言われようが無視すればいい。
学べる物を提供できない人に、自分から何かを差し出す必要なんかない。

「この人からは何かを学びたい」と思える人を探そうと思ったら、「**影の濃い人**」を
見つけることだ。

臨床医なんて職人集団だから、研究者のキャリアプランとはだいぶ異なる面も多いけれど、
全てが順調にいった人というのは案外少ない。

欠点というのは、短期間では修正困難だ。
欠点を修正するよりも、長所を伸ばしたほうが効率がいい。

みんな成長する。欠点を抱え込んだまま。

成功している医師に、聖人君子はいない。

人間的に欠点がなくて、
誰とも穏やかに付き合って、患者さんとのトラブルもなく人望も厚いなどという
人には、残念ながら何の魅力もない。

長所が太陽のように輝いていて、しっかりとした存在感を持っている人の足下には、
黒々とした影ができる。自然なことだ。

魅力的な医師には、必ずと言っていいほどどこか黒い部分があって、
その影の暗さが全く自然なものとして違和感がない。

存在感のない奴のことを「影が薄い」と言うのには、たぶんもっともな理由がある。

敵はいないけれど味方も少ない人は、影が薄い。味方も多くて敵も多い人、
いい噂も悪い噂も、病棟で常に名前を耳にする人というのは、影が濃い。

影を「影だ」と認識して、それを踏まないように振舞うノウハウを積んだ研修医は、
その上級医の専門家になれる。

専門家となった研修医は、その上級医の「光」を吸収して、将来師匠を乗り越えることが
できるようになるかもしれない。

1年目。

いろいろな人がいて、いろいろな上級生とであって、
ほめられたり、怒られたり、潰されたり苛められたり。
本当にいろいろなことが自分の身に降りかかってくる1年間。

久しぶりの新しい職場。付き合いやすいドクターも、まだ少し苦手なドクターも、いろいろ。

昔と違って、今の自分には少しだけ、状況を楽しむ余裕みたいなものがある。

最初は猫かぶって、なじんだら地を出して。自分の生存確率を最大に
保ちながら、いろいろなスタッフからノウハウを教えてもらって。
苦手な分野が「苦手である」ということをまた楽しんで。

自分もしばらく新人。