「犯人は○○」とか、「実は、黒幕に○○がいて…」という真実は形が見えるから、それに火をつけて

焼き捨てることができる。

忘れられなくなると、みんなフネスになる。

考えられなくなり、なんでもいいから燃やせるものを探し出す。

忘れるため、思考を続けて、前に進むためには、「原因」を紙に書いて焼き捨てなくてはならない。

たとえそれに効果がなかったとしても。

##ネットに忘却をもたらすもの
「忘れることが不可能な装置」の最たるものは、Winnyだと思う。

P2Pのネット上に放流された情報は消されることがなく、ずっとネットをさまよいつづける。

Winny ネットに参加した全てのパソコンからデータを消さない限り、Winny に放流されたデータを
消すことは不可能だ。個人の不倫の情報だろうが、国家機密だろうが、「忘れられることがない」
と言う意味では全く対等。

>Winny上のデータを何とか消すことができないものか。

このまま放流が続くとろくなことにならないデータはたくさんさまよっていて、
いろいろな専門家が「Winny に忘却をもたらす」方法を研究している。

大量の偽情報を放流して検索を無意味化するとか、
Winny 上のデータにインデックスをつけて消去可能にするといった
イデアが発表されている。

医療の事故があると、必ず「誰が悪いのか」「原因は誰なのか」という犯人探しが始まる。

問題を解決するためには何か「形」を持った原因、
あるいは悪役というのが必要で、その悪役を「焼き捨てる」ことで、事故にあった当事者は
そのことを忘れようとする。

大抵の場合、その「悪役」は便宜的なものにしか過ぎなくて、本当の原因はもっと奥のほう、
形にしたり、あるいは復讐したりするのが不可能な場所にある。

便宜上の「原因」を焼き捨てたところで、
その残骸の表面にはやはり忘れたかった事故の記憶が浮かぶ。

焼き捨てられた「原因」たる当事者の医師は焼かれ損なだけ。
ただでさえ人の少ない現場からは、
また一人貴重な人的リソースが失われる。

「忘れるための新しい技術」というのは、
もしかしたらそうした過程にも何かの変化をもたらしてくれるかもしれない。

今のWinnyの技術の進歩には、ひそかに期待していたりする。

解決不可能な問題に適当な悪役を仕立て上げて、その「悪」を焼き捨てて、
忘れたふりだけするなんていう茶番は、結局は自分達の首をしめるだけ。

医師-患者関係の進化の可能性というのは、きっとこんなところにも転がっている。