負けたら罰

一見同じようだけれど、戦略は異なる。

「勝ちかた」は、プレーヤーが勝手に決められる。

格闘技なら、ルールで負けたって、
最後までリングに立っていればそれは「勝ち」。解釈のしかたひとつで、
「勝ち」なんていくらだって宣言できる。

「負け」を決めるのは、審判の権限。

こちらにはプレーヤーに選択の余地は無い
から、負けないためには審判の意志をくむのが重要。

「勝つ」のが得意なのは即興性に優れた人で、「負けない」のが得意なのは正直者。

「勝たなかったから罰則」という法律は、本来は即興者を縛るためのもの。
正直な人は「勝ちかた」が分からないから、これを守るのが非常に難しい。

>交通安全週間のときは、大きな横断歩道の脇には、警察官が立っている。
>普段は何も考えなくても安全な交差点では、このときとばかりに事故がおきる。
>交差点を横切る自動車に求められる「勝利条件」は、人を轢かずに曲がりきること。
>ところが、交通安全週間の期間だけは、この条件が「警察に怒られないこと」に変わってしまう。

1. 期間中、交差点では警察官が信号役をする。
2. ところがまれに、警察官が「曲がってよい」というシグナルを出したそばから、横断歩道を横切ろうとする小学生がいる
3. ドライバーの注意は、横断歩道でなく警察官に注がれる
4. 子供はドライバーには見えず、事故がおきやすくなる

自分みたいに、学生のころに(夜中の峠道で)警察から嫌がらせを受けたような人間なら、なおさら。

正直者ばかりの業界は、安定していて確実な進歩が期待できる。

ところが、「負け」の定義が明確でないのに、「勝て」といわれても困ってしまう。

こんな状況で「負けない」ためには、勝負を避けるしかない。

だから、現場からは医師がどんどん減っている。

##ルールに求められること
法律を作る人達に何とかしてやって欲しいことの一つは、
「負け」の条件を明確にしてほしいことだ。

今はまだ、マニュアルも不備だらけ。

マニュアルに「最後は臨床症状とあわせて考える」なんて入っている時点で
それはマニュアルとしては使いものにならないし、
最低何人必要なのか、どれだけの物量を投入すれば「十分」と判断されるのか、
そのあたりはマニュアル本には全然書かれていない。

そのあたりを現場に合わせてやりくりするのがセンスなのだけれど、
今はその「センス」の部分で罰せられるから、手が出せない。

限られた人的リソースでベストな結果を出すには、即興性に優れた人間をそろえるか、
職人気質の人間が納得できるような方法論を示すか、どちらか。

残念ながら、安定期に入った業界からは即興性に優れた人間はいなくなってしまうから、
今必要なのは方法論を誰か偉い人が決めること。

お菓子のレシピのように、誰が作ってもそれなりの物ができて、
レシピを完璧に再現できれば奇跡が生まれる、そんなやりかた。

もっとも、それができた時点で、全ての医者は菓子職人になる。

お客が8人から10人に増えたとき、料理人なら材料をごまかして調整できても、
「ショートケーキ2個おまけして!!」は相当難しい。

今ごまかしてもらっている「2人分」の財源をどこから持ってくるのか、
その問題は必ず出てくると思う。