Sat, Jan 29

  • 15:49  大昔、落合信彦の国際ドキュメンタリー「20世紀最後の真実」だったか、安保闘争を指揮していたのはCIAの訓練を受けたアジテーター達だった、という記載がさらっと書かれていて、子供心に「アジテーターってすごい」と思ったものだった
  • 17:00  「若者は本を読むべきだ」なんて老害じみた妄言に、自分はけっこう賛同していたりする。少なくとも老人を理解する、老人で食べていこうと思ったら、ネットじゃなくて、本を読まないといけない。
  • 17:01  日曜の予定のない昼下がり、やることのない20年前の学生だった頃、今だったら間違いなくPCに向かってキーボードを叩くけれど、あの頃何をしていたかといえば、日がな一日本を読んでいた。それが一番安価な娯楽だったから
  • 17:02  本を読むのも、ネットで文章を読むのも、やっていることはテキストの摂取であって、ある意味大差ないんだけれど、長い文章、最初から長く作ることを想定された文章と、無数の短い文章とは、中身というか、目的が全く異なってくる
  • 17:04  需要に合わせた文章を素早く生成するための技術と、1年ぐらいかけて1冊の本を作る技術と、たとえば20万字なら20万字、1年間かけて同じだけの文字を作るにしても、ベースになる技術は全く異なる。大工さんと土建屋さんと、同じ「建築」でくくれないみたいに
  • 17:05  大昔、インターネットというものは、そもそもこの世に存在していなかったから、ちょっと考えてすぐに発信して、15分後には何かの反響が戻ってくるような状況というのは、昔の人はそもそも想定していないし、むしろどこかでそれを拒否しているような気がする
  • 17:06  今40歳ぐらいの人が、ちょうどいいタイミングで文化をまたいだ世代であって、60歳ぐらいの人に、「素早い反応」を返したりすると、喜ぶ前に、もしかしたら気持ち悪いと思うような気がする
  • 17:30  何というか、本の文化圏でずっときた人は、犬小屋を造るにしても、重機とコンクリートでないと納得しないんじゃないかと思う。世の中にベニヤ板とねじ釘なんて存在しないみたいな
  • 19:30  中島誠之助が、1000万円の値が付けられたお茶碗に、3万円という鑑定を出していた。「いい仕事」どころじゃない、もはや詐欺の被害者を慰めるような状況
  • 19:32  のっけから「これは非常によくできた贋作です」と断じていた。いつもの柔らかさとは遠い、どこか怒ったような口調で口上をはじめる。まずは形がよくない、釉薬の色がこれではいけない、目につく欠点を最初に指摘する
  • 19:33  「このお茶碗はそもそも」と、本物の語りに入る。口調はずっと固いというか、怒ったようなまま。本来は武将の使う器であること。まわりに付けられた溝は飾りなどではなく、戦闘中にも一服の茶を楽しめるよう、絶対に滑らないように付けられたものなのだと
  • 19:34  本来は鉄分の多い土で作られたのだと語る。手に刺さるような、尖ったような質感がでないといけないのだと。「本物」は非常に苛烈な実用品であるような語りで、それに比べると鑑定品は「優しすぎる」のだという文脈で間違いを指摘していた
  • 19:35  語りの後半は鑑定書に移る。権威ある鑑定者の直筆だった。ベテランの鑑定者で、権威があって、でもこの焼き物についての知識はそこまで多くはないはずだと。
  • 19:37  話は鑑定者の年齢に移った。御年88歳、権威ではあっても、必ずしもその領域でない、しかも高齢、不利な条件が重なって、「だから偽物」と落とすのかと思ったら、「間」が一瞬あって、「情けが出たんでしょうね」で締めた。あれはすごかった
  • 19:38  普段の語りとは少し違った、一切の間を置かない、いっそぶっきらぼうに聞こえるような、どこか怒ったような語り口は、まさにこの間のためにあったようなものだった。ほんの一瞬話が切れて、苛烈についての語りが、「情け」という言葉に転化した
  • 19:39  「情けが出たんでしょうね」を、一言で、いっそ軽いぐらいに言い切ってしまうのが芸だと思った。あれを「情けが、出たんでしょうねぇ」と抑揚を入れると池上さんになる。分かりやすいけれど、中島の芸とは違う
  • 19:40  「この作品に私が本物という鑑定を下したら、恐らくは全国で本物と通じます。出もそれをやるわけにはいかないのです。だから3万円という値付けを出しました」と結んだ。価値というよりも、業界の断罪としての価格
  • 19:42  これは一歩間違えれば、3万円に1000万円出した人を笑うことにもなりかねないし、被害者を慰める、お通夜みたいな番組にするわけにはいかない。1人の語りで全て持たせて、買った人も、鑑定した人も、業界も、どこも落とすことなく、贋作者に対する怒りでまとめる。芸だった
  • 19:43  鑑定者を「無能」といえば、もう亡くなっている人みたいだったから、万事丸く収まるのに、それをやると買った人が単なる被害者になる。下手な価格を付けて「大事にして下さい」をやったところで、1000万円は金額が大きすぎて、どうやったって納得なんていくわけがない
  • 19:44  中島ほどの名人ですら、「本物と鑑定してもいい」と言わしめるぐらいによくできた贋作だからこそ、業界への警告として、あえて3万円という値札を付ける、あの3万円は、30万円付けて「大事にして」よりも、むしろ価値があるのだと思う
  • 19:45  贋作者に対する怒りに共感しつつ、本物を賞賛しつつ、先輩の衰えを「情け」という言葉で、老いを肯定的なものとして表現し、あえてどん底の値付けをすることで、単なる贋作を、「敵ながらあっぱれ」の象徴にして見せた。素晴らしかった
  • 19:47  「情けが」のあたりから、頭の中で変な回路が回り出して、テレビ見てたのに、中島誠之助がどんな顔で語ってたのか、全然記憶にない

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