2005-09-24から1日間の記事一覧

魂消える演劇というもの

演劇を見るのもやるのも恥ずかしかったのは小学生の頃。作り話を楽しまず、斜に構えるのはかっこいいことだった。空気の読めない子供はせっかくのライブ演劇(昔は3ヶ月に1回ぐらい、体育館に劇団が来てくれた)を楽しまず、奇声をあげたり歩き回ったりして、…

ミュージカル「キャッツ」の後半、見事な踊りを披露した手品師猫ミストフェリーズは、自分に当たったスポットライトをだんだんと小さくしていく。舞台全体を照らしていたスポットライトはただ一匹の猫を照らすだけになり、さらにミストフェリーズの顔だけが暗闇に浮かぶようになり…。最後は手品師猫が「**フッ**」と一息すると、舞台は真っ暗になり、次の瞬間妖精猫シラバブの「メモリーズ」独唱が始まる。舞台中で踊っていたほかの猫は、暗闇の中でいつのまにかシラバブを囲むように座っている。このときの舞台の変化は、本当にミストフェリ

視線の誘導は、強力な演出技術だ。実世界での人間の視野というのは、非常に広い。とくに対象が動くものなら、背後から近づきでもしない限りは、たいていのものは見逃さない。演劇では、演出家は観客の視線を巧妙に誘導する。誘導された視線をホームポジショ…

「オペラ座の怪人」の冒頭、オークションの666番、オペラ座のシャンデリアが出品されるところから舞台が始まる。出品されたシャンデリアが突如点滅をはじめ、不気味な不協和音とともに左右にゆれながら天上へと上っていくとき、舞台のほうではオークションが片付けられ、19世紀末のオペラ座の舞台へと変わっている。天井に視線が釘付けになった観客が舞台へと視線を戻すと、すでに全く違った世界がそこにある。