参考にした書籍

日本語の教科書はどれも無難にまとまっているもののあまり面白くなく、
自分が参考にしているのはほとんどが海外の教科書。編集方針が
独特なものが多く、「こんな表現手法があったのか」と関心することも
しばしば。

Amazonのおかげか、今では日本語の教科書よりも圧倒的に
安価に購入できるものも多い。

Patient Presentations in General Practice


オーストラリアの一般内科(GP)の診療マニュアル。
作者の人自身が「世の中の本でGPの診療に役に立つものがまったくなかったため
この本を企画した」といったことを書いているとおり、非常に実践的な内容が
書かれている。

章立てはすべて「頭が痛い」「息が苦しい」といった主訴別になっており、
さらに「息子の成績が悪い」「勃たない」といったGPの外来にくるほとんどの
相談、主訴を網羅しており、患者の訴えから鑑別診断を想定し、問診のしかた、
必要な検査までがフローチャートでまとめられ、さらに疾患ごとの治療、
患者へのアドバイスなどがまとめられている。

当初、内容があまりに面白いのでこの本のお手軽な翻訳を海賊版的に作るつもりで
いたのだが、内容が外来のみに偏っていて、入院患者にそのまま使える部分がほとんど
無い…。このためほとんど一から作り直すことになった。

結果的にこの本から引用できたことはほとんどなかったが、外来診療、特に海外の
GPと呼ばれる人がどんな仕事をしているのかがよくわかり、おもしろい。

Algorithmic Diagnosis of Symptoms and Signs:A Cost-Effective Approach

作者の先生は神経内科の人で、ほかにも何冊か一般内科、救急外来での鑑別診断
の本を書いている。

この本は2004年に第2版が出版されたもので、内科領域で遭遇する主訴、
患者の状態変化(血圧低下や発熱、浮腫など)に対してまずどういった検査を行い、
そこからどんな疾患が考えられるかをすべてフローチャートを用いて説明している。

今回作った研修医マニュアルとほとんど同じような考え方で書かれており、
とても参考になったが、表題で Cost-Effective Approach とあるように、
血液検査やCTといった検査による鑑別はほとんど記載されていない。

また、無理やりフローチャートに鑑別診断を押し込むためか、結構無理のある
診断を行っている部分もある。理学所見による鑑別診断で条件分枝を行って
いる部分も多く、理学所見の訓練を十分に受けていない研修医に本書と
同じような診断方法を教えても間違えが増えると思う。


逆に理学所見に自信のある先生、安易な検査オーダーを嫌う先生には
本書は面白く読めるかもしれない。自分自身は自分の理学所見の感度/特異度とも
信じる気になれないので、どうしてもいろいろと検査をオーダーしてしまう。

自分で書いたマニュアルにもフローチャートが多数出てくるが、当初は本書
のそれを丸々翻訳するつもりでいたものの、結局ほとんど一から作った。

Common Medical Diagnoses: An Algorithmic Approach

この本も、内科領域でよく見る患者の主訴からどんな鑑別診断を考え、
それにいたるまでにどんな検査をオーダーし、その結果から何を考えるかを
フローチャート型式でまとめている。前の本よりも編集方針は徹底しており、
1ページ全体を用いた大きなフローチャートとその解説以外には何も書かれていない。

内科学の教科書的な病態生理、治療法といった内容についてはハリソン、セシルの
参照ページが記載されているのみ。

200ページあまりの薄い本だが非常に面白く読めた。

ただ、フローチャートは非常に複雑で、それを1ページに収めるために本も
大きくなっており、持ち歩くのは難しい。この本は理学所見よりも検査所見に
重点をおいて鑑別診断を行っており、どちらかというと自分の感覚にあっていたが、
日本ではできない検査が多々あったり、喘鳴を訴える患者にまず行うべき検査に
精密肺機能検査をあげてみたりと日本の現場の感覚とずれている部分も多かった。

フローチャートは考え方の流れを記載するにはわかりやすい方法なのだが、
主訴から鑑別診断までをこれで書くとピラミッド型になってしまい、
鑑別診断を細かくするほど幅が広がり1ページに収まらなくなってしまう。

この本はフローチャートを用いて最終診断まで記載しているが、その結果
チャートは巨大になり、たとえば腹痛の鑑別診断チャートは4ページに分割して
記載されている。そうなると全体像をつかむのは困難になり、かといって
一覧性を高めるために本を大きくすると持ち運べなくなるというジレンマが
生じてしまう。