空気培養

MRSAが出ていると、近所の老健は患者を引き受けてくれない。肺炎で入院した高齢の患者さんから、お決まりでMRSAが出現、除菌してもなかなか良くならなかった。

「そんなわけで、なかなか除菌できないのでそこの老健は取ってくれないかもしれません。」と息子さんにお話すると、「先生、真面目に培養などとらなくても構いませんよ。培養をとるふりだけして、"陰性”と報告するなんて、どこの病院でもやってますから」との返事。

この息子さんは、福祉課の職員。


ひどいこと言うなあ。前に、この人に自分の患者(68歳独居の女性。脳出血で半身麻痺)の生保を申請したら、「まだ体でも売れば生活できるでしょう」と追い返されたんだよな。培養を真面目に出たら、この人の生活に少しはダメージを与えられるかなあ。

などと考えたが、素直に「分かりました。そうします。」とお返事した。

医者なんて、病院から一歩でも外に出たら何の力もありはしない。つまらない正義感から公務員を敵に回しても、得られるものなど何もない。

患者はめでたく培養陰性となり、すぐにベッドの出来た(本当は半年待ちなのに)近所の老健に転院していった。

生保をもらえず追い返された患者さんは、結局自宅で訪問看護となった。自立できるわけもなく、尿路感染から敗血症になって亡くなった。