警察からの紹介患者

民間の病院に長く勤めていると、刑務所からの紹介患者を受ける機会がある。

警察組織にも医療刑務所はあるが、そこは17時以降は患者を受けない。

受刑者が医療機関の職員を傷つけてしまった場合、その病院が公立病院であれば新聞が黙っていない。一方、受刑者を民医連系の病院に紹介しようものなら、朝○新聞と○旗が黙っていないだろう。

結局こうした患者は、当院のような社会的な権力とは無縁の病院に救急搬送されることになる。

こうした病院の職員なら、万が一殺されたところで署長がティッシュボックス一箱持って詫びれば終わり。事件から2週間もすれば笑い話だ。

で、毎年2-3人はこうした患者が当院に深夜に紹介されてきた。患者さんのはずなのに不思議と重篤感はなく、視線は殺る気まんまん。腰縄に手錠。ついてくる婦警さん(なぜかいつも女性だった)のやる気の無さも全開。

「きっとこの人たちは、僕たちが殺されるまで何もしてくれないんだろうな。」というのは、診察しなくても態度で十分分かった。

自己防衛のために気をつけていたのは以下のとおり。

尖ったものはおかない。筆記具はフェルトペンを使用し、カルテも表紙をつけずに(金属がついているので)紙一枚を使用。舌圧子は木製のディスポのものを使用する。

ボールペンや鉛筆は絶対に身につけない。凶器にされる。

循環器用の重い聴診器は武器になるので、看護用の軽いものを使用する。首をしめられる可能性があるので、管の部分は傷だらけのものならなおいい。

診察中は患者さんから視線をそらしてはいけない。このためにも、長い聴診器の使用を心がける。

白衣のポケットの中は原則として空にする。ポケットに視線をそらした際、相手から何をされるか分からない。

ネクタイは外す。白衣の前ボタンもすべて開放し、相手に首をつかまれないよう注意する。

間違っても護身用の武器を持とうなどと考えてはいけない。彼らのほうがよほど強いし、事件になったらマスコミは凶器を持っている側の敵に回る。

刑務官の人たちは銃を持っているが、絶対に使われることは無い。たとえ刑務官の目の前で医者が犯罪者に絞め殺されようと、犯罪者に対して発砲して新聞ざたになるぐらいなら、医師を見殺しにするほうを選ぶ。「病院で罪も無い服役囚を刑務官が射殺」のほうが、「病院で医師が殺される」よりも○日新聞的にはよほど読者受けする記事になる。

女子医科大学日本医科大学などでヒットマンが患者を射殺したりする事件が時々報道されるが、なぜこうした事件がいつも私立の大学なのか、公務員という人たちを理解できればすぐわかる。独自のメディアを持っていない組織など、公務員組織から見ればただのカモだ。危険なことが怒りそうな患者は、最初から「民間人」しかいない病院に送られる。

自分もようやくそうした人たちの中に割り込むことができたので、いまは安全地帯からこうしたことを書き散らせるのだけれど。