夢には条件なんて関係ない

某外科に患者の手術を断られた。

ガイドラインでは、このステージに手術を行っても予後改善の効果は見られないので、手術の適応にはならないと思います」だと。

「条件が悪いから手術ができない。やっても意味がない。」そんなことは無い。

夢とは「だから」見るものではなく、「にもかかわらず」見るものだ。(ミヒャエル・エンデ)
外科医の仕事は手術をすることだ。

手術すれば直る」。古臭い考え方だが今でも通用する、病院を頼ってくる人たちの共通の夢だ。どんなに困難な状況であっても、夢を見る資格を持っている人であれば、いくらでも夢は見られる。

外科医の仕事は、患者の夢を受けとめ、夢を実現し、まだ病院を信じられない多くの病人に夢を見る勇気を与えることだ。

患者の夢が実現可能なものなのか、あるいは単なる妄想に過ぎないのかは、患者自身で決定することはできない。

確実なのは、夢を託された相手が実行するつもりの無い夢は、単なる妄想で終わってしまういうことだ。

適応のない手術を行うのは馬鹿。ガイドラインを外した治療を行う奴は無知。
外科を取り巻く状況は、年を追うごとに悪化している。

困難な状況だから手術をしない。理性的な選択だ。でもそれは外科医のとるべき道じゃない。外科医の返事はこうあるべきだ。

困難な状況だ。勝てないかもしれない。だからこそ、手術をしよう。
自分が研修医の頃、「CTやエコーがどういう所見を示そうが、手術の適応を決めるのは僕の指先だ。」断言した外科医がいた。救急外来の重症患者をどの科が取るかで医局が混乱した際、救急外来の壁に「全身管理は本来、外科医の仕事である」と書いた紙を打ち付けた外科医がいた。あれは絶対、マルチン・ルターを意識していた。

乱暴な意見、蛮勇を振るいすぎた態度。過激な意見を吐く医者には敵も多い。外科医の意見に誰もが賛成するわけじゃない。

それでも、いざというときに逃げない外科には他科の信頼が集まる。外科医は胸を張って廊下の真中を歩き、他科の医者も外科には道を譲る。

外科は夢を受け止める仕事。夢を実現させる仕事。失敗もあるが、奇跡を作るのは外科医にのみ許された行為。奇跡がおきるのはいつだって手術室だ。

勇気ある撤退?科をまたいだ意見の交換?エビデンスに基づいた手術の適応?

悪いことじゃない。そんな外科医がいたってかまわない。でも、患者の夢を現実に折り合わせるのは外科医本来の仕事ではない。

少なくとも、そんな外科医は廊下の真中を歩くべきじゃない。