生扉と生体

生体というのは、うまくいっているときにはその維持のコストは非常に少ない。
暴飲暴食を多少行ってもどうということはないし、3日や4日カップラーメンだけで暮らしたとしても、
それだけで体がおかしくなることもない。

むしろ、規則ただしすぎる生活は生体を外乱に対して弱くする。

いろいろな種類の食品を食べること。休んだり、運動したりと言った生活の変化をつけること。
うまくいっているときには、生体も多少の「揺らぎ」があったほうが、万が一のときの外乱に対して
上手くやっていけるような気がする。

一方、生体が障害を生じたときには、生体維持のコストが非常に高くなる。

病気になった生き物はじっとしている。なるべく動かず、体温の低下を防ぎ、
消耗を避けて全体力を治癒に回そうとする。

ICUで患者さんを見守っているとき、一番厄介なのは不隠が出現した患者さんだ。

どんな病気の人も、基本的にはじっとしていなくてはならないときというのはある。
そんなとき、不隠になって暴れられると、今までの苦労が水の泡になる。

挿管してから8時間、やっと酸素濃度を下げられて、そろそろ抜管が見えてくる頃、
不隠になって暴れ、むせこみを繰り返したあげくに今までの苦労が一からやり直し…
なんていうのはいつものことだ。

社会情勢には正直疎いし、情報源はニュースばっかりだけれど、最近話題のライブドアという会社の
振る舞いというのは、生体によく似ている。

危機に陥った会社は、たいていの場合は派手な経営回復策を打ち出してみたり、
トップ経営者の総入れ替えを行ってみたりといった派手な治療手段をとっていた。
これはちょうど、「ステロイドパルス療法」とか、「ボスミン心注」のような、派手だけれど
あまり効果の期待できない治療、患者さんに「止めを刺す」ときにしばしば考慮していたような
治療手段に見える。

ライブドアという会社は、
うまくいっているときには組織が「揺らぐ」ぐらいに派手な振る舞いを見せていた。

一方で、会社が危機に陥っている現在、極端な「治療」に頼ることなく、
「安静」に全力をあげているように見える。

単なる偶然なのか、今の経営トップの人達に何かポリシーがあるのか。

それとも、最近の神経系を実装したかのようなIT企業の組織形態の振る舞いというものは、
自然と生体組織に似てくるのだろうか?