問題の大きさと未来予測の精度
入院した患者さんと話をするときには、必ずロードマップを示すようにしている。
「今の症状はあと何日したら軽減します」とか、「この症状はすぐに無くなると思いますが、
この症状を無くすにはだいたい2ヶ月前後かかります」とか。
慣れている人間の強みというのは、鳥瞰的な視点を持てることだ。
相手は素人。地面からの視点。
地虫の視点からは「鳥」は想定外だから、
違った視点からの見かたを提示されると、誰でも驚く。
驚きは信頼を生み、
その後の人間関係が作りやすくなる。
初対面の患者さん。主治医は未来を口にする。実際は、いきあたりばったり。
##未来予知は難しい
先を見越すのは難しい。
もちろん、病気はある程度類型化できるからこそ治療も可能だし、教科書も作れる。
入院時。だいたい3日先ぐらいまでの予定は立つけれど、そこから先は現物あわせ。
うまい経過でいけばいいけれど、そうでない人の予定表はどんどん変わる。
入院時の予言なんか、一瞬で反古になる。
気まずいけれど、予定表を書き換えなきゃ病気が治らない。
鳥の視点からものを見るのは難しい。
入院した時の「未来予知」というのは、典型的な経過を暗誦しているだけ。
医者が空を飛べるわけじゃない。状況が予定通りにいかないときは、
もう教科書なんか信用できない。頼りになるのは、自分も含めた誰かの過去の経験だけ。
先のことは分からないけれど、「そのときをどう乗り切るか」という問題ならば、
たいていは誰かが答えを知っている。みんな「地虫」でいることには慣れているから。
いろいろな人に相談して、毎日のように予定をあちこち修正しながら、
治療はだんだんとゴールへむかう。
かっこ悪いけど、しょうがない。
##エレガントな解答の罠
合併症が重なって泥沼化したとき、「エレガントな解答」がひらめくことがある。
>いくつかの症状を説明しうる、今まで気がつかなかった隠れた原因。
その原因さえ何とかできれば、一気にゴールが見えてくる。
この「隠れた原因」という奴は、たいていは間違って発見されて、ミスリードをさそう罠となる。
最近話題になった数学の問題([できるかぎりエレガントな解法を見つけて「うっかりミス」を減らす](http://satoshi.blogs.com/life/2006/06/post_2.html)より引用)。
>時計の長針と短針は、12時にちょうどピッタリと重なります。次にピッタリと重なるのは何時でしょう。
こうした問題の解答方針は、大きく2つ。