敗血症にアルギニン

Sepsis:An arginine deficiency state?

アルギニンは、体内ではシトルリンから合成される非必須アミノ酸であるが、敗血症の予後改善に効果があるかもしれない。

アルギニンは、肝臓のなどでシトルリンから合成される経路と腸管から直接吸収される経路とで合成され、一方アンモニアの解毒のためにオルニチン回路で分解されたり、また重要な血管拡張物質であるNOを合成するために消費される。

NOは一酸化窒素合成酵素(NOS)によってL-アルギニンのグアニジノ基と、分子状酸素を基質として生成され、血管拡張作用以外にヘルパーT細胞の賦活化や、炎症性サイトカインの合成促進などの作用を介して免疫力を増加させる方向に働く。

敗血症患者血中のアルギニン濃度は低下している。敗血症に陥った患者はしばしば食事を取れなくなり、アルギニンの腸管からの供給は無くなってしまう。また、アルギニンの体内での合成も敗血症の時には低下してしまう。さらに、アルギニンは体内ではNOの生合成により消費されてしまうため、敗血症の急性期にはアルギニンの消費は亢進する。

敗血症の患者においては、NOの増加は体血管抵抗の低下を生じる原因になっているが、一方では微小循環の改善作用、スーパーオキサイド産生抑制作用といった敗血症の転帰を改善させる作用を併せ持つ。さらに、アルギニンは敗血症患者の蛋白代謝に影響し、急性期反応蛋白の産生を増加させる作用があると報告されている。

敗血症の患者においては、血液中のアルギニン濃度の低下している患者は予後が悪いという観察結果もある。

こうした観察を受け、今までに敗血症の患者に対していくつかのアルギニン濃度を上昇させる方法が試された。

もっとも簡単なのはアルギニン製剤の経口投与、アルギニン製剤の静注であるが、アルギニンの経口投与については予後が改善したという報告もあるものの、まだはっきりした結果は出ていない。静注については一過性の血圧低下が報告されているが、臓器循環の改善、心拍出量の増加といった効果が報告されている。

一方、アルギニンの分解を行うNOS(NO合成酵素)阻害薬、NOの直接供給によりアルギニンの分解を減らす方法などは一部メリットも報告されているものの、血行動態に対する悪影響が報告され、予後に対しては否定的な報告が多い。

単純にアルギニンが多い製剤としては、以前から免疫力を高めるとうたう経口栄養製剤の効果が報告され、データ上は確かにICUでの予後改善効果が報告されていた。

あるある大辞典」でも以前話題になっていたアミノ酸だが、効くのだろうか?安い製剤ならば現状の経管栄養剤に少し混ぜてみても害にはならなそうだが。

本来敗血症の患者は腸管の動きが悪くなっているので、経管栄養剤の投与は比較的禁忌になっているが、小腸栄養チューブを挿入している施設なら大丈夫なのかもしれない。

バソプレシンの投与が敗血症性ショックの血行動態を改善しうるという話と、アルギニン投与がNO産生を増加させるという話題とは微妙に干渉しているような気もするが、適応になる病期が違う、作用する部位が異なる、NOを介した作用以外についてはお互いの作用を打ち消すようなことは無いなどからたぶん併用することには問題無いのだろう。

アルギンZってまだ売っているんだろうか。

生体内では一酸化窒素は一酸化窒素合成酵素(NOS)によってアルギニンと酸素から合成される。一酸化窒素は細胞内の可溶型グアニル酸シクラーゼを活性化してサイクリックGMP(cGMP)を合成させることによりシグナル伝達に関与する。

血管内皮は一酸化窒素をシグナルとして周囲の平滑筋を弛緩させ、それにより動脈を拡張させて血流量を増やす。これがニトログリセリン亜硝酸アミルなどの亜硝酸誘導体が心臓病の治療に用いられる理由である。これらの化合物は一酸化窒素に変化し、心臓の冠動脈を拡張させて血液供給を増やす。発毛剤ミノキシジル(リアップ®)はcGMP分解を抑制して毛細血管の血流量を増やす。一酸化窒素は陰茎の勃起でも働いており、やはりcGMP分解抑制薬であるシルデナフィルバイアグラ®)はこのメカニズムを利用したものである。

免疫に関与する細胞の一種マクロファージは病原体を殺すために一酸化窒素を産生する。しかしこれは逆に悪影響を及ぼすこともある。敗血症ではマクロファージが一酸化窒素を大量に産生し、それによる血管拡張が低血圧の主因となると考えられている。

一酸化窒素は神経伝達物質としても働く。シナプス間隙のみで働く多くの神経伝達物質と異なり、一酸化窒素分子は広い範囲に拡散して直接接していない周辺のニューロンにも影響を与える。このメカニズムは記憶形成にも関与すると考えられている。

一酸化窒素の生物機能は1980年代において驚くべき発見として迎えられ、一酸化窒素は1992年の「サイエンス」誌で「今年の分子」として取り上げられた。1998年のノーベル生理学・医学賞は一酸化窒素のシグナル機能の発見によりF・ムラド、R・F・ファーチゴットとL・イグナロに授与された。

WikiPediaから。